種もみを作る
- editor888
- 6 時間前
- 読了時間: 4分
今のお米作りでは、農協などから苗を買ってきて田植えに使うというのが主流になっています。しかし、私たちは前年に穫れたお米から、さらに翌年のお米を作るようにしています。これは、自分たちが作ったお米は、昔ながらの農法を守りながら、その連鎖をつなげていきたいというこだわりからです。
したがって、お米の収穫が終わると、農作業は一息つける……と思われがちですが、実は次のシーズンの準備は静かに始まっています。 特に大切なのが、前年に穫れたお米を「種もみ」として使うための準備です。そのまま蒔けば芽が出るというわけではなく、元気な苗を育てるためには、いくつかの丁寧なステップが必要になります。
1. のぎとり:機械と手作業で整える
まず最初に行うのが「のぎとり」です。 「のぎ(芒)」とは、種もみの先についている細い毛のようなものです。これが残っていると、水に簡単に浮かんでしまうため、次の工程で行う「塩水選(塩水に浸けて良質な種もみを選別する)」がうまくできません。

私たちは、この作業に専用の機械(脱芒機)を使っています。機械を通せば一瞬のように思えますが、実は丁寧さが求められます。 種の乾燥具合によって、のぎの取れ方は変わります。一度に大量に入れすぎず、機械の音や出てくる種の様子を確認しながら、無理な負荷をかけずに進めていきます。機械で取りきれなかった細かい枝などは、最終的に目で見て取り除きます。 こうした地道な作業が、後の「欠株(苗が植わらない場所)」を防ぐことにつながります。
2. 塩水選:良質な種を厳選する
次に、「塩水選(えんすいせん)」という選別作業を行います。 全ての種もみが同じように育つわけではありません。中には中身が詰まっていない軽い種も混ざっています。それらを取り除き、重厚で栄養たっぷりの種だけを選ぶために、塩水を利用します。

水に塩を溶かし、一定の比重(濃度)を作ります。そこに種もみを入れると、中身が軽いものは浮き、充実したものは底に沈みます。 浮いてきた種を丁寧にすくい取り、沈んだ「エリート」たちだけを回収します。この作業をすることで、発芽の勢いが揃い、その後の管理がぐっと楽になります。選別を終えた後は、種に塩分が残らないよう、綺麗な水でしっかりと洗い流します。
3. 温湯消毒:お湯の力で病気を防ぐ
選別が終わったら、次は「温湯消毒(おんとうしょうどく)」です。 これは、種もみを病原菌から守るための大切なステップです。一般的には農薬を使うことが多いのですが、私たちはお湯の熱で消毒する方法を選んでいます。

方法はシンプルで、60℃のお湯に約10分ほど浸けるだけ。しかし、この「温度管理」が何より重要です。 温度が低ければ消毒にならず、高すぎれば種の芽を殺してしまいます。タイマーと温度計を使い、お湯の温度が一定に保たれるよう、常に気を配りながら作業を進めます。 農薬を使わない分、手間はかかりますが、環境や食べる方への安心を考えると、外せない工程の一つです。
4. 浸水:目覚めのための十分な水分を
最後に行うのが「浸水(しんすい)」です。 消毒を終えた種もみを、数日間水に浸しておきます。これは種に水分をたっぷり吸収させ、発芽のタイミングを揃えるための作業です。

目安となるのは「積算温度100度」。例えば、水温が10℃なら10日間、じっくりと浸けておきます。 この間、ただ放っておくわけではありません。種も呼吸をしているため、毎日水を取り替えて、常に新鮮な酸素を供給する必要があります。 冷たい水の中で少しずつ膨らんでいく種もみを見ていると、いよいよシーズンが始まるな、という静かな実感が湧いてきます。
丁寧な準備が、秋の実りを支える
「のぎとり」から「浸水」まで。 どれも派手な作業ではありませんし、一つ一つは地味なことの積み重ねです。しかし、この四つの工程を丁寧に行うことで、ようやく種は土へ還る準備が整います。
「ここまでやったんだから大丈夫」と思えることが、私にとっての安心感であり、お米作りに対する誠実さだと思っています。効率を求めることも大切ですが、こうした一つ一つの手仕事を大切にしながら、今年も美味しいお米を届けていきたい。
さて、次はいよいよ「種まき」です。今年も元気に芽吹いてくれることを願って、準備を続けます。



コメント