苗を作る「育苗」
- editor888
- 6 時間前
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美味しいお米づくりの第一歩は、元気な苗を育てることから始まります。「苗半作(なえはんさく)」という言葉がある通り、お米作りの成否の半分は、田植え前の苗の出来栄えで決まると言われています。私たちが毎年、どのような工程を経て種もみから苗を育てているのか、その裏側にある細かな管理と日々の仕事をご紹介します。
1.催芽(さいが):種を一斉に目覚めさせる
まずは、事前に数日間水に浸して十分に吸水させた種もみを「発芽器」に入れます。発芽器とは、温度と湿度を一定に保つための設備です。種もみはそれぞれ個性があり、自然に任せるだけでは芽が出るタイミングにバラつきが生じてしまいます。

これを一定の温度(およそ30℃前後)で保温することで、すべての種もみに「今が芽を出す時だ」と一斉にスイッチを入れさせるのがこの工程の目的です。
2.種まき(播種):精密な作業が求められる土台づくり
催芽を終えた種もみは、いよいよ「種まき機」を使って育苗箱にまいていきます。ここは機械の力を借りますが、その調整には経験が求められます。 育苗箱がベルトコンベアの上を流れる間に、「床土(とこつち)を敷く」「水を打つ」「種をまく」「覆土(ふくど)を被せる」という四つの工程が連続して行われます。

ここで最も神経を使うのが、種の密度です。種が重なり合ってしまうと、苗同士が栄養を奪い合い、細く弱い苗になってしまいます。逆に少なすぎると、田植え機で植え付ける際に欠株(苗が植わらない場所)が出てしまいます。育苗箱一枚あたり、何グラムの種をまくのが最適か。その日の種もみの状態に合わせて機械を微調整し、均一な「密度」を実現することが、後の丈夫な根張りに繋がります。
3.出芽(しゅつが):土の下での静かな成長
種をまき終えた育苗箱は、再び「発芽器」の中に高く積み上げます。今度は、土から芽が顔を出すのを待つ段階です。 この時期の芽は、まだ光に当たっていないため、透き通った白色をしています。暗闇の中で適度な温度と湿さを保つことで、芽は土を押し退け、上へと伸びようとします。

ここで大切なのは、芽の長さを揃えることです。すべての箱で一斉に1センチほどの白い芽がツンツンと出揃った瞬間、発芽器から出します。早すぎても遅すぎても、その後の緑化(日光に当てる工程)でムラが出てしまうため、深夜や早朝であっても、成長の進み具合に合わせて箱を出し入れする判断が求められます。
4.育苗(いくびょう):太陽と水で苗を鍛える
発芽器から出したばかりの白い苗を、いよいよ「育苗プール」へと並べます。ここで初めて太陽の光を浴びた苗は、光合成を始め、数日のうちに美しい緑色へと変化していきます。これを「緑化」と呼びます。

私たちが採用しているプール育苗は、苗を並べた場所に水を張り、常に一定の水位を保つ方法です。これにより、苗が水不足で枯れるリスクを防ぐとともに、水の浮力を受けることで根が箱全体にバランスよく、緻密に張っていきます。 しかし、ただ水に浸しておけばいいわけではありません。日中の気温が高い日には、水が熱くなりすぎないよう水の入れ替えを行い、逆に冷え込む夜間は、苗が寒さに負けないよう保温管理を徹底します。
こうして太陽の下で風に吹かれ、適度な寒暖差を経験することで、ひょろひょろとした「もやし」のような芽は、田んぼの厳しい環境にも耐えうる、ずんぐりとして力強い「成苗」へと育っていきます。
このように、種もみから苗になるまでの一ヶ月弱の間、私たちは毎日苗の表情を観察し、必要な手助けを続けています。特別な魔法があるわけではありません。温度、水、そしてタイミング。当たり前の管理を、一つひとつ丁寧に取りこぼさずに行う。それが、私たちがお届けするお米の品質を支える、何よりの土台になると信じています。



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